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傑作アルバム『What are you looking for』をひっさげ、2016年初頭に9都市10公演で敢行された「Tour What are you looking for」。
今作は、全会場大盛況の中でも特に、ハナレグミ史上最高のパフォーマンスと評され、ソールドアウトとなった東京公演二日目の3月6日NHKホールで披露された全21曲を完全収録。
ニューアルバムからの楽曲は勿論、「光と影」「家族の風景」「オアシス」「明日天気になれ」等々、ハナレグミ代表曲が網羅されたセットリストからなる、まさに究極のライブベストともいえる作品。
1月20日の名古屋市公会堂を皮切りに、9都市10公演にわたって開催された〈ハナレグミ Tour What are you looking for〉。昨年8月に発表されたアルバム『What are you looking for』のレコーディングにも参加した菅沼雄太(ドラム)、真船勝博(ベース)、Yossy(キーボード)、icchie(トロンボーン/トランペット)、武嶋聡(サックス)によって構成されたバンドとともに各地を回ったツアーから、ここでは東京2デイズ公演の1日目にあたる3月5日(土)NHKホールで行われたライブの模様を振り返る。
ステージの中央に置かれたポータブルプレーヤーからはアナログレコードが流れ、その後ろには昨年秋の弾き語りツアーも一緒に回ってきた相棒である、オリジナルの多面体スピーカーも設置されている。舞台奥には乱反射する光の筋のようにランダムに交差する多数の白い平面ゴムがステージセットとして組まれ、床面にはアルバム『What are you looking for』のアートワークをモチーフにしたカラフルな幾何学模様の絨毯が描かれている。BGMの軽やかな足取りで登場した永積 崇とメンバーたち。揃いの白いシャツにも、アートワークとリンクするように模様が描かれている。以前インタビューした時に永積は「自分の音楽はCDを出して、ツアーを廻ることでやっと完成する」と発言していたが、その想いはセットや衣装などの細部にも表れていた。
「大事な土曜日をありがとう。思い切り楽しんでいってちょーだい!」と挨拶すると、アルバムの1曲目に収録されたインスト曲「Overnight trip to Chaing Mai」でライブがスタート。大太鼓やピアニカなども取り入れたエキゾチックなバンド・アレンジで、まるで冒険映画のテーマ曲のように壮大に幕を開けると、アシャのカバー「360°」を続けて披露。Yossyの奏でるエレクトリックピアノの音色が印象的な「レター」では、永積が「今日ここはお前たちの場所だ、いくらでも騒いでいいぜ!」と叫び、心地良いミッドグルーヴに客席が揺れはじめる。スライ・ストーンあたりを彷彿させるファンキーなアンサンブルによる「大安」に続き、アルバム収録曲「フリーダムライダー」ではエフェクティブなアプローチも組み込んでみたりとカラフルなサウンドで魅せていくハナレグミ。リズム&ブルース色を強く打ち出した選曲で、序盤から会場は大いに盛り上がる。
永積がバンジョーギターを抱えて歌う「金平糖」では、会場のあちこちにいた子供たちも一緒に歌いはじめ、なごやかな空気に包まれる。オルガンの音色でさらにエモーショナルに胸に迫る「あいまいにあまい愛のまにまに」では、テンポがあがりゴスペル調に展開する終盤で大きなシンガロングが巻き起こり、会場全体がひとつになった瞬間であった。
今回のツアーは永積を入れて6名の編成で回ってきたが、楽曲ごとにメンバーそれぞれの担当以外の楽器に持ち替えてはアレンジに彩りを添えていったりと、随所で少数精鋭ぶりを発揮。とくに中盤、メンバー全員がステージ中央に集まるスモール・コンボで演奏していくパートでは、アコースティック主体のアレンジによるロックステディ「旅に出ると」、メトロノームがメインでリズムを刻む「ぼくはぼくでいるのが」など、遊び心に富んだアレンジで聴かせていく。中でもアフリカ音楽の要素を前面に打ち出した「11DANDY」では、曲に進むにつれシンセの音色やダブ的なサウンド・エフェクトが飛び交う雄大なグルーヴへと展開。「春なんか待ってられねぇよ、一気に夏だぜ!」という永積のシャウトそのままに、熱気あふれるダンスフロアへと化していった。
カオティックな盛り上がりをクールダウンさせるように、永積がステージ上に一人残り弾き語りコーナーへ移ると、YO-KINGとの制作秘話で笑いを誘いつつ、しっとりと「祝福」を披露。さらにボブ・マーリィ「No Woman No Cry」の一節を挟んで「光と影」をギター1本で歌いあげると、会場を埋め尽くすオーディエンスたちも息を飲むように聞き入る。
アルバム『What are you looking for』リリース時のオフィシャル・インタビューでも永積は、「究極的には、僕は聴く人を一人にしたい。ライヴを観に来てワーッって楽しんでるんだけど、ある瞬間にものすごく孤独になるような。そういうエッジを立たせたいって思いながら、音楽を作ってる」と語っていたが、朗らかに楽しく踊ったナンバーあとに、メランコリックな静寂がふと訪れるように素晴らしいバラードを聴かせていくハナレグミのライブを観ていると、心の中に眠るさまざまな感情が揺り起こされていく。舞台袖に下がっていたメンバーが戻り演奏されたのは「家族の風景」。Yossyが奏でるオルガンと夕焼けのようなオレンジ色の照明がいつも以上に郷愁を感じさせるこの曲を聴きながら、今日ここに集まった3500人の人たちも同じように、それぞれの「家族の風景」を脳裏に浮かべながら聴いているのだろうと思うとなんとも感慨深く響いてくるのと同時に、「祝福」で歌われる〈究極 孤独 幸福〉というフレーズの意味をあらためて嚙みしめたくなる。
じっくり聴かせた後は、ラストまで一気に駆け抜ける。ハッピーでいてちょっとほろ苦いロックステディ「愛にメロディ」にはじまり、アルバム収録のファンキーなソウル・チューン「無印良人」ではミラーボールが回る中、客席も思い思いに踊りだす。そして「今からこの場所をオアシスに変えるぜ!」とシャウトして披露したのは、前作アルバムの表題曲「オアシス」。実はこの「オアシス」がきっかけとなり、アルバム『What are you looking for』のテーマや、ジャケットのイラスト、アートワークのコンセプトにつながっていったという大切な一曲だ。ギター、トランペット、サックスとソロを回しながら、延々と続くような熱狂的なグルーヴでこの日の最高潮へと誘っていく。熱気あふれる高いテンションのまま、人気曲「明日天気になれ」へ。「会場に来てくれたみんなが(ハナレグミの)メンバーです」という永積の言葉通り、ステージ上のミュージシャンたちも客席を埋め尽くすオーディエンス全員で大合唱し本編は終了した。
鳴り止まないアンコールに応えて、再び登場したメンバーたち。来てくれた観客に向けて感謝の気持ちに加えて、アルバム『What are you looking for』について語りはじめる永積。「自分の場合はCDを作っただけではアルバムは完成しない。こうしてライブで演奏して、お客さんのみんなとセッションすることで初めてアルバムが形になると思ってる。今日めでたくアルバムが完成しました!」と想いを述べると、アルバムのリード曲でもある野田洋次郎作詞・曲のナンバー「おあいこ」を披露。弾き語りツアーではエレキギター1本でエフェクティヴなサウンド処理も駆使しながら深遠な世界を描いていたが、今回のライブでは、その時の演奏と違うのはもちろん、アルバム収録のバージョンともまた一味違った、激しい感情のうねりを感じさせるようなアレンジは、間違いなくこの日のクライマックスとなった。
「おあいこ」の深い余韻に包まれる中、永積が「だがしかし、お前たちを帰したくない!」と叫ぶと、アルバムでも最後に収録されたジャンプ・ブルース「逃避行」で、NHKホールの大舞台をにぎやかに締めくくる。すると今度はオーディエンスのほうから「だがしかし」と懇願するようにダブルアンコールが起こる。その大きな歓声に引き戻されるように、アコースティックギターを抱えて一人ステージに戻ってきた永積は、ボーナストラック的に「いいぜ」を披露。みんなで会話をするように「いいぜ」と合唱し、笑顔あふれる空間を作った永積は「どうせこのあと居酒屋にでも行くんだろ? もう君たちの好きにしたらいいぜ」と最後に大きな笑いを誘う。そのままスムーズに帰ろうとした永積だったが「だがしかし」。実は最後にステージ上のポータブルプレーヤーでレコードをかけて、お客さんを送り出す音楽を流すというミッションが残っていた。照れくさそうにステージに戻りつつ、自宅から持ち込んだLPの束の中から選んだのは、ポール・サイモン「Still Crazy After All These Years(邦題:時の流れに)」。永積が生まれた翌年に発表された同名アルバムに収録された1曲で、永積も大好きなナンバーだという。レコードに針を落とすと、レコードに合わせて気持ちよさそうに歌いはじめる。思いがけないサプライズに客席からも大きな拍手が起こる中、2時間半近くに及ぶライブは幕を下ろした。
終演後の帰り道、オフィシャル・インタビューで永積が語ってくれた、こんな言葉を思い出した。
「自分にとっての音楽っていうのは、自己を追究するための音楽じゃなく、その瞬間瞬間で反応していく音楽なんだろうね。その場所でどういう気持ちで同じ言葉を発するのかっていうことを大事にして、僕は音楽をやりたいんだなって思う」(ライター=宮内 健)
以下は、2015年8月にリリースしたニューアルバム『What are you looking for』のリリースツアーの東京公演、2016年3月5日・6日NHKホールの6日の方を丸々収録したライブ・アルバム『Live What are you looking for』を、急遽9月13日に配信限定でリリースしたことについてのインタビューである。ライブアルバムという、これまで出したことのない作品を、配信限定という出したことのない形態で出したのはなぜか。このツアーは自身にとってどんなものだったのか。2016年はそのツアー後にも、4人編成のバンドもしくは弾き語りで、やたら精力的にフェスやイベントを回っていたが、今そんなふうになっているのは何なのか。今の永積 崇とライブというものとの関係はどんな感じなのか。そもそも今ミュージシャンとして、シンガーとしてどんな時期なのか。というような、今本人にききたいことをとにかく聞きまくった。長いが、ぜひじっくり読んでいただければ幸いです。
電車の中でみんながiPhoneで聴いてる景色が、──9月に配信でライブアルバムが出ましたけれども。あのライブ、フジテレビNEXTで放送もあったじゃないですか。でも音源でもリリースしたい、というのは?
永積 崇 なんかねえ、今までどっかでライブ盤というのを避けてたんだけど。ライブって、その瞬間で消えるからいいよなあ、とか思ってたんだけど。でもなんかやっぱり……レコーディングして、盤を作って、それだけだと自分が全部出せてないような気がして……って、このライブでもMCで言ってたような気がするんですけど。やっぱりライブでないと出てこないものがあって。だからCDとライブ、両方とも聴いてもらって完成だよなって、より強く思ったからなのかな。ライブっていうものを、もう少しちゃんときっちり留めて、残してみたいなっていうのは、この数年だんだん思っていて。それで、ちょうどフジテレビネクストも入っていて、きれいに音を録ってもらえるっていう話だったから。
──ライブDVDは前にも出してますよね。今回はライブ音源がよかったのは?
永積 DVDって、ほんとにDVDでしか観れないじゃないですか? なんかもっと気軽に……クルマを運転してる時とか、電車に乗ってる時とかに、聴いてもらうっていうのがいいのかなと思って。ライブ終わったあとのみんなの反応とか聞いてても、「またもう一回聴きに行きたい」っていう声がすごいいっぱいあるから、そこにちょっと応えてみたいなって。
配信にしたのは、急遽出そうってなって、CDにしていると年末ぐらいになっちゃうっていうから、それだとつまんないなと思ったのと……電車の中でみんながiPhoneで聴いてる景色が、ふといいなあと思った瞬間があったの。みんなこういうふうにして聴いてんだな、と思って。俺、まだCDのポータブルを持ち歩いて聴いたりしてる方だから。それで、ライブ音源だったら、ライブの帰りに落として、「あの時間をもう一回思い出して聴きたいな」っていう、時間が伴ってるような気がするから。そういうふうに気軽に出会える場所がいいかな、だったら配信もいいかも、と思って。
初めて聴いた入り口がライブの人も、今すごい多いじゃないですか? フェスも多くなって。「これ誰? ハナレグミ? ああ、なんかCMでたまに聴くわ」とか、そういう人もいっぱいいると思うから。そういう、ライブから入る心地よさっていう意味では、こういう音源のほうがもしかしたらいいのかな、とも思ったしね。
──ほかにもご自分が思う、ライブならではの魅力ってあります?
永積 これは自分が歌うにあたってだけど、レコーディングって、対自分になっていくっていうか。でもライブって、目の前にいる人たちに向かって、空間に向かって歌うから、やっぱり全然違うものになる。で、僕、それが音楽だと思うから。目の前の人と対話するっていうか、つながるっていうか。目の前の同じものをみんなで見ながら、その日どういうふうに育っていくのかを確認し合うもんだと思うから、音楽は。そういうのはライブじゃないとできないし、その一端でもそれが垣間見えたらうれしいなと思いますけどね、このライブ盤で。
なんか、もう「イェイ!」って言うことだけじゃ──このツアーは今ふり返ると、どんなツアーでした?
永積 ……より育った、って感じかな。今までの、自分がやってきた……その前までは、勢いとか熱量とかでガッと2時間なりを一気にまとめてたような気がするけど、もっとこう、なんていうかな、音楽に対して入り込むっていうか。この曲をどういうふうに仕上げていくかとか、1個1個の音をちゃんと選んでライブをやったね、このツアーは。
そういう音楽がほんとにやりたいっていうか。もっと自分がいいと思うものを、しっかり選んで仕上げたい、その上で自分の歌を、ちゃんとしっかり歌うっていうか。
なんか、もう「イェイ!」って言うことだけじゃないような気がして、今の自分は。これをどう捉えてもらってもいい、つまんないなって思ってもらってもいいような気がどこかしたかもね。
「前と変わっちゃったな」と思う人もいるかもしんないし、そういう人は全然いてもいいなと思って。自分が「いい」っていうところに、やっぱりしっかり立ってライブをやりたいと思った。そういう覚悟みたいなものを、持って臨んだツアーだったかなあ。
だからすごく……自分では、かなり新しいとこに向かおうとしてたなと思う。劇的にまるっきり音楽が変わるってことじゃなくてね。その1曲に対してどうやったら深みを作れるか、ライブでその2時間ぐらいを使ってどれぐらいまで表現できるか……っていうのは、なんか……やれたかなあ、ちゃんと。
──このライブを録った日はどうだったか、憶えてます?
永積 NHKホールの2日目だよね? どうだったかなあ……でも俺、このライブ盤を聴いて、「すげえよかったんだな」って思ったというか(笑)。このツアーは1本目からもう正解が出てたっていうか。最初が名古屋で、自分的にもいきなり「うわ、すごいいいステージだったな」と思って……だから、よかった、どの会場も。ここはよくなかったっていう印象がない。曲順もすごいよかったし。これはベースの真船(勝博)くんが、ツアーにあたってバンマスをやってくれたんだけど、「こういう曲順、どうかな」って持ってきてくれたのがすっごいよかったんだよね。それが大きいかもなあ。
──ソロなのに曲順をメンバーが考えてるんですか?
永積 (笑)そう。あと、まんなかで小編成のコーナーをやるのがいいんじゃないか、っていうアイディアも真船くんが出してくれて。8曲目の「旅に出ると」から、13曲目の「光と影」までがそうなんだけど、それもよかったなあ。
棲み分けがすごくいっぱい、はっきりある。──2016年はこのツアーが3月に終わったあとも、ライブいっぱいやってますよね。
永積 うん。ライブをいっぱいやりたいなあと思ったんだよね。なんか……以前だったらさ、リリースして1ツアーやったら、全部やったような感じがあったじゃないですか? それこそ90年代とか2000年代初頭ぐらいまでは。でももはやそれだけだと、全部をやりきれてないような感覚があるのかな。
それはやっぱりウェブとかああいう世界が、すごく広くなってきたからだと思うんだけど。フェスに関して言うと、やっぱ来る人は来るし来ない人は来ないっていう、関係性がすごくはっきりしてるような気がするんですよ。まあ若い子とかは、いろんなとこ行きたいと思っていろいろ動くんだろうけど、たとえばうちらぐらいの世代になってくると、決まったイベントには行くけど、いろんなとこに行こうとはしないみたいな。
とか、やっぱり音楽ってものを全体的に見ても、聴く人は聴く、でも聴かない人は聴かないっていうのがはっきりしてるし。音楽聴くけど、すごく有名な誰々しか聴かないとか。なんかこう、棲み分けがすごくいっぱい、はっきりあるような感じはしていて。でも、そういうものじゃないような気がするし、それは自分にとって、すごく閉塞感を感じるっていうか。知っていてくれてる人たちのためだけに音楽をやりたいわけではないし、人を限定しているわけではないから、そうやって決まっちゃうのは、なんか違うような気がして。
だから、もちろん今までやってた場所でもやるけど、もっとそうじゃない場所に行って、どう受け止められてもいいから、その曲がどう捉えられるのか? っていうのをやらないと、自分の中で活性化しないというか、変わっていかないっていうか。雨ざらしになってもいいし、炎天下でもいいから、どんどん歌がいろんなところで鳴って、それで色がつくような感じがあるからさ。その曲にいろんな……染みがつくような感じね。そういうものであるべきだと思う、っていう気がしたのかな。
だから、今まではあまり参加してなかったような場所でも……それこそね、オーバーグラウンドの人がすごい出てるようなイベントでも、行きたいと思ったし。ハナレグミなんか全然知らないだろうな、っていうような人たちの前でも歌ったし。で、実際にステージに出ると、普段のフェスとは全然違う反応でさ。ヒヤッとはするんだけど、じゃあここで自分が書いてきた曲を自分はどういうふうに歌うの? って、すごく自分に問いかけられるというか。そうすると曲が太くなっていくっていうか、どうして自分はこの曲を歌っているのかっていう理由が、自分の中でもう一回湧き起こってくるというか。で、なんとか一端でも持ち帰らせたいというか、そういう気持ちになったんだよね。
──4月末の『ARABAKI ROCK FEST.16』から10月9日の『STARS ON 16』(岡山県井原市の歴史公園で行われたフェス)まで、21本出ておられますが。その出ていってヒヤッとしたのは、たとえばどれですか?
永積 いちばんヒヤッとしたのは、九州の『NUMBER SHOT』っていうフェスで。TRFとかと同じ日で、たぶんそういう人たちのファンが多くて。だからヒヤッとしたけど、でも……なんか、そういうもんじゃないか?って、自分の中の自分が言うっていうか。予定調和になっちゃいけないし、分かってくれてる人のとこに居すぎちゃいけないというか。それだと曲が立ち上がってこないっていうか、やっぱ「聴け!」とか「どう?」っていつも言ってないと、そういうモチベーションがないと、曲が鳴らないような気がするっていうか。
今、音楽すごいたくさんあるじゃないですか? 自分も日々たくさんの音楽を浴びてるし。で、やっぱり、それを超えて自分がどういうことを伝えるのかっていうことに対しては、いつも熱くいたいなあと思う。
──ハナレグミってわりと早い時期に、日本武道館をやったり、小金井公園に2万人集めたりしたじゃないですか。本数は多くないけど、いっぱい集めてドカーンとライブをやる、ということをやっていたけど、今はそうやって集まってもらうよりも、こっちから出ていうほうがいい?
永積 うん。集まってもらうよりも、こっちから出ていく方がいいかもね、今は。集まってくれるのは、よくハナレグミを理解してくれてる人たちだから。もちろんその人たちにも向けて歌いたいんだけど、なんかもっといろんなところに出ていきたいっていう感覚の方が強いかな、今は。
こういう場所でどういうふうに受け止められるのかなあ? とか。次にまた、この場所にみんな集まって音楽を聴いてほしい、っていうのに向かってるんだと思うんだけど、その熱量を集めるために、今は動いてるような気もする。
──あの、もともとは、ライブあんまりやんなきゃやんないでいいし、働かないなら働かないで楽しくすごせる人だったじゃないですか。
永積 (笑)いや、楽しくすごせるけど、全然追い込まれてるよ?
──だから今のこのモード……よく言うとやる気に満ちている、悪く言うとケツに火がついているようなこの感じは(笑)、なんなんでしょうね。
永積 はははは。いや、でもちょっとね、燃えてるのは燃えてるんだよね。確かに、いい意味でケツに火がついてる感じはあるかもね。今ほんと、スタッフワークもでき上がってるし、いろんなことを気にしなくてよくて、自分は歌に集中すればいい、ライブに集中すればいいっていう状況で、いろんなことがすごくやりやすいというか。
こういういい状況が今あるんだったら、今それを使っていかないと。いつまでもあるものじゃないかもしれないから。だからほんと、運命的にも「今もっとやれ」って言われてるような気がするし。もっと動きたいなっていうモチベーションが、なんかすごくあるんだよね。
それはやっぱり……まあ一個、声っていうのはあるかもね。今すごくいいけど、あと10年とかするとまったく違う声になるかもしれない。それはそれで悪いことじゃないんだけど、今この声でできることをやっておかなきゃ、っていう。そういう意識が今すごくあるかも。それがおもしろいんだけどね、「今のこの声で何をしますか?」っていうモチーフを一個もらってるような感じで。
それはこないだのアルバムを作って実感した。実際レコーディングで歌って、モニターから戻ってくる自分の声が、今までイメージしてた自分の声とは違うんですよ。それに最初すごいとまどって。「声が出ない!」って一瞬考えたりもしたんだけど、結局体型とか身体が変わっていて、出ているキーは変わんないんだけど、重心が下がって声の質感が変わってたみたいなのね。
だから「あれ? ここの音でパーンと当たってこない。これヤバいんじゃないか」って思ったんだけど、レコーディングが終わって聴くと、重心が変わったことによって、今まではなかった深みみたいなものが、声に出てるような気がしたの。「聴いてくれー!」って歌わなくても、フッと歌っても風景ができ上がってるような歌になってるな、と思って。ああ、こういうふうに声ってこういうふうに移り変わっていくもんなんだ、と思って。
だから、今みたいに歌える時があるんだったら歌っていきたいし、さっきも言ったけど、ウェブとかインターネットってものが、やっぱりどっかで俺の中ではしっくりこないっていうか。その中で伝えられてることっていうのは、今まで本で読んでもらっていたものや、CDで聴いてもらってたもので補えていたのが、補えてないものも出てきているような気がするっていうか。じゃあその補えてない部分っていうのは、自分が身体で動いて、出前のようにしてでも、補っていきたいっていう感じがあるかも。矢野顕子さんの『さとがえるコンサート』とか、クラムボンの『どこがいいですか?』もそうだと思うんだけど。
──なるほどね。
永積 やっぱり音楽って、もっと偶然で出会うべきものな気がするし、それはウェブの中だと……amazonとかだと「あなたの好きそうなものはこれです」ってピュンと来るけど、それは出会いじゃないような気がしてて。物語がないんだよね。そこに物語があって、初めて……たとえば珈琲屋のウンチク好きのおっちゃんが、「あれが好きならこういうのもあるぞ」って勧めてくれるんだったら、その店に来るまでの時間とか、おじさん最初めんどくさそうだったけどしゃべっているうちになんとなくおもろいことがわかった、そのおじさんが教えてくれたCD、聴いてみようかな──とか、そういう物語があるじゃない。俺はそれがおもしろいと思うんだけど、amazonのお勧めには深みがないんだよね、出会いの。
だからもっと、めんどくささも含めて音楽は聴いてもらいたいっていうか。もっと偶然出会うとか、たまたま肩と肩がぶつかることによって、知らなかった別の世界が……ほんとは世の中にはいっぱい入り口があると思うから。やっぱりそういうものの中に、自分の音楽はありたいっていうか、そういうとこに向けて音楽をやりたいっていうかな。
だから、やっぱり反発してるのかもね。そんなふうにまとめられたくないし、もっともっとめんどくさいものでありたいし。それには、ウェブじゃないというか。もっと触ってほしいし、もっと忘れたいけど忘れられないものにさせたいし。それぐらいのもので人とぶつかりたいって思うと、やっぱり僕はライブだなあと。
そういう枠組から外れるためにも、どんどん自分から出ていって。「音楽、そんな遠くのものじゃないよ」というか、自分の歌をもっと立体的にぶつけたいというかね。で、なんか、そういう強靭なものでありたいしね。
(インタビュアー=兵庫慎司)